新型コロナウイルスワクチンの小児への接種が『努力義務』となったことについて
                         (2022年9月12日)

今回、新型コロナウイルスワクチンの小児接種が、『勧奨』から『努力義務』に変更と
なりました。 この『努力義務』というのは、「接種を受けるよう努めなければならない」
という予防接種法(第9 条)の規定のことで、義務とは異なります。 接種は強制では
なく、最終的にはあくまでも、ご本人、ご両親が納得した上で接種を判断していただく
こととなります。 わかりにくい表現ですが、違いを簡単に説明すると、今までは、
“接種したほうがいいですよ…”という程度であったのが、“できるだけ接種するように
努力して下さい…”ということです。 

当院は本年3月に、“新型コロナワクチンの小児への接種はお勧めしません”との考えを
お伝えしていますが、今回の決定に当たり、当院での経験もふまえ、再度当院の考えを
お伝えしたいと思います。 
ただ、これは、あくまでも当院としての考えであり、すべての小児科医が当院と同じ
ように考えている訳ではありませんし、院長自身も所属している日本小児科学会の
公式見解としては、小児へのワクチン接種は積極的に勧めますというスタンスですので、
当院の考えとは多少違っているということをご理解いただきますようお願いいたします。

まず、現在の新型コロナウイルス感染症についてお話しします。

◎ 現在流行している新型コロナウイルス感染症の特徴
現在国内で流行している新型コロナウイルスは、ほぼ大部分がオミクロン株のBA.5系統で
あると考えられます。 特徴としては、初期に流行した変異株であるアルファ株、デルタ株
などと比較すると感染力が強くなり流行しやすくなった反面、病原性そのものは弱くなり、
死亡者、重症者は極端に少なくなりました。
当院では現在までに約300名の新型コロナウイルスに感染した方(生後3ヵ月〜成人)の
診察、健康観察・フォローをしてきました。 たかだか300名ではありますが、その経験から
見えてきたこと、わかったことをお伝えします。

まず、新型コロナワクチン接種の有無と新型コロナ発症との関連ですが、当院で経験した
新型コロナウイルス感染者のうち、小児の大部分はワクチン未接種で、逆に、成人の大部分
はワクチンを2回以上接種していました。 小児例のみに注目すると、一見、ワクチン接種を
していない小児ばかりが新型コロナを発症しているように見えますが、成人例では逆の
結果となっていて、もともと小児のワクチン接種率が20%程度と低く、発熱等で受診
されるお子さんのほとんどがワクチン未接種であるという背景がこのような結果として
反映されていると考えられます。 実際、家庭内で子供が新型コロナに感染した場合、
ご両親がコロナワクチンを2回以上接種していてもかなりの確率で新型コロナを発症
しています。 また、患者さんから伺った話でも、子供の部活内でワクチン接種していない
自分の子供は新型コロナウイルスに感染せず、他のワクチン接種した友人は新型コロナ
ウイルスに感染した…といった例もある様ですので、少なくとも“ワクチンを接種して
いれば新型コロナにかからない”というのは幻想であると言えます。 

症状は、小児の場合は、初めの1〜2日間程度は高熱が出て、頭痛、咽頭痛などが強い
ですが、3日目からはほぼ全例が症状も落ち着き元気になっています。 特に、低年齢児
(乳児〜2、3歳)ほど症状が軽い傾向があります。 また、その後の後遺症を訴えるお子様
も現時点では出ていません。 一方、成人の場合は、小児より発熱、全身の倦怠感、頭痛、
咽頭痛などの症状が長く続く傾向があり、1週間近く体調が悪い方も何人かいます。 
また、味覚異常、嗅覚異常も、小児では認められませんが、成人では比較的多く認められ
ます。 

各年代(小児、成人)で、ワクチン接種の有無による症状の程度や期間に違いがあるか
どうかという点に関しては、小児のワクチン接種者、成人のワクチン未接種者の数が極端
に少ないため、正確な評価はできません。 ただ、ワクチン接種者が大部分を占める成人
の方が小児より症状が強い傾向があるのは、単純に年齢による違いなのかも知れません
が、ワクチン接種をしているから症状が強く出ている可能性もあり、この点に関しては今後
の研究により明らかにされていくと思います。 
以上より、当院での経験では、小児にとって現在の新型コロナウイルスは通常の“かぜ”と
あまり変わらず、極端に心配しないといけないほどの病気ではないように思えます。

患者数の爆発的な増加に伴い、最近、新型コロナウイルスによる小児の重症例や死亡例を
ニュースで目にすることも多くなりました。 先日も基礎疾患のない10歳未満の死亡例が
報告されましたし、鳥取県でも、大学病院などの3次救急病院には痙攣重積などの重症例
の入院もあったようです。 このようにお伝えすると“やはり新型コロナは怖い…”と
感じられることと思いますし、“自分の子供がその様になったらどうしよう…”と不安に
なるお気持ちは当然だと思います。 また、その様な重症例を診療されている医療従事者
の立場からは、“決して新型コロナはかぜではない…”という考えが伝えられるのも当然
だと思います。 確かに、新型コロナウイルス感染症のすべてが軽症というわけではなく、
中にはこのように痙攣重積を起こして脳に障害が出る、あるいは心筋炎を起こして突然死
されるような不幸な例もあります。 
ただ、大切なことは、その様な重症例がどのような頻度で起こっているのかというのを
冷静に判断しないといけないということではないでしょうか。

あまりご存じでない方も多いかも知れませんが、実は、新型コロナウイルスが出現する
までは、日本では毎年数十名の小児がインフルエンザに関連した疾患でお亡くなりに
なっています。 また、従来の季節性コロナウイルス感染症による心筋炎が原因で突然死
されるお子様も毎年報告されています。 さらに、小児の脳炎の3大原因は、インフルエン
ザウイルス、ロタウイルス、突発性発疹ウイルスとされており、インフルエンザ以外でも年間
何名かの小児がロタウイルス感染症、突発性発疹が原因でお亡くなりになっています。 
ただ、これらの不幸な例については、“病気による死亡である”という理由で、マスコミでは
ほとんど報道されることはなく、皆さんの耳の届くことはありません。 一方、新型コロナ
ウイルスによると考えられる死亡例、重症例は1例でも大々的に報道されます。 

では、これらの小児期における一般的な感染症と比べて、新型コロナウイルス感染症の
ほうが明らかに重症例、死亡例、後遺症発生例が多いのでしょうか? 
厚労省の統計では、2020年9月から現在(2022年9月12日)までの2年間で、新型コロナ
ウイルス感染後の10歳以下の累積死亡者は18名、10〜20歳未満の累積死亡者は10名と
なっています。 これらの死亡例すべてが、新型コロナウイルス感染が直接死因と確定
されているわけではありませんし、仮に、これらのすべてが新型コロナウイルスによる
死亡であったとしても、毎年のインフルエンザの死亡者数と比較すれば、その死亡例は
少数であるといえます。 

要するに、新型コロナウイルスも他の感染症も同じように一定のリスクがあると考えて、
当院が従来からお伝えしているように、“全身状態、症状などはどうか?元気かどうか?”
ということを意識してお子様のケアをしていかないといけないということです。 
新型コロナウイルスのみを特別扱いする今の風潮は、他の感染症に対する警戒心を低下
させ、かつ、必要以上の警戒により、子供達の健やかな発育、健康に悪影響を及ぼしている
と思います。
ただ残念なことに現状は、政府、行政、マスコミなど医学にあまり詳しくない方々のみ
ならず、専門家と言われている医師でさえも “新型コロナウイルス”という言葉のみで、
『新型コロナウイルス=特別な病気』といった思考停止状態に陥り、その結果、新型コロナ
ウイルスを必要以上に恐れ、結果として国民の皆様に不安を与える状況になっている
ように思われ、とても残念です。


◎ 新型コロナウイルスワクチンの効果について

基本的にワクチンは、“発症を予防”あるいは“重症化を予防”するものであって、“感染”を
防止するものではありません。 要するに、“ワクチン接種によって体に目に見えない
バリアができて感染そのものを防ぐ…”というようなものではなく、体に入った(感染した)
ウイルスが体内で増殖する前に、ワクチン接種により獲得した免疫でウイルスを撃退して
発症や重症化を防ぐものです。 同じウイルスに感染しても人によって発症しなかったり、
症状が軽かったりするのは、それぞれの免疫の強さの違いによるものです。 
厳密に言えば、ワクチン接種によってウイルスが侵入する前に粘膜レベルで体内への侵入
を防ぐという効果も多少はあるので、まったく感染予防効果がない訳ではありませんが、
基本的には“体内にウイルスが感染することによって効果を発揮する”のがワクチンの
働きです。

現在国内で接種できる新型コロナウイルスワクチンは、ウイルス発生当初の野生株
(武漢株)をもとに作られたワクチンです。 一方、ウイルス自体は当初の野生株から
アルファ株、デルタ株などに変異し、現在はオミクロン株(BA.5)が主流となっています。 
ワクチン接種が始まった当初は、政府、専門家も、“ワクチンを2回接種すれば新型コロナに
感染しない…”と広く国民に対して接種を勧めていました。 ところが、その後、
新型コロナウイルスの変異に伴い、ワクチンの発症防止効果は著しく低下し、現在は
“発症防止効果はあまりないが、重症化の予防には一定の効果があるので接種しましょう
…”とワクチンを勧める理由が変わってきました。

ファイザー、モデルナなどのmRNAワクチンは、接種した人の体内で新型コロナウイルス表面
のスパイク蛋白(突起物)という物質を人工的に作成し、そのスパイク蛋白に対する中和
抗体(ウイルスに対する免疫)を獲得することによって発症を予防、あるいは重症化を
予防するという理論で作られたワクチンです。
 
現行のワクチンを接種した場合、理論的には、そのワクチンによって作成される野生株の
スパイク蛋白に対する中和抗体が作られるので、野生株に対する発症防止効果はある程度
は期待できます。 一方、現在流行しているオミクロン株は野生株とはスパイク蛋白の構造
が大きく違うため、現行のワクチンを接種してもオミクロン株に対する発症防止効果は
限定的になると考えられます。 実際にワクチンを複数回接種した人でも今回の
オミクロン株の新型コロナウイルスに数多く感染しているという事実がそれを物語って
います。 新型コロナウイルスは変異しやすい性質があるため、ワクチンの効果を維持する
にはウイルスの変異に対応したワクチンのバージョンアップが必要となります。 
mRNAワクチン最大のメリットは、このウイルス変異に対するワクチンのバージョンアップが
比較的容易で、かつ、短期間での大量生産が可能であるという点です。

政府は今秋にオミクロン株に対応したワクチンを輸入し、国民に接種を呼びかけています。
この新ワクチンは、従来の野生株と、少し前に流行していたオミクロン株(BA.1)をミックス
したハイブリッドワクチンです。 そもそも現在流行していない野生株とBA.1に対応した
ワクチンを接種して、現在主流であるBA.5に対して十分な効果があるのか非常に疑問が
残りますし、今後、新たな変異種であるケンタウルス株が流行する可能性もあります。 
政府、専門家は、“BA.1対応ワクチンでもBA.5に対してもそれなりに効果はあるので、
いつ入手できるかわからないBA.5対応ワクチンを待たずに今回のBA.1対応のハイブリッド
ワクチンを接種しましょう…”と勧めますが、米国では今秋にBA.5対応の新ワクチンが
承認、接種開始になります。 また、今回の新ワクチンの接種対象となるのは、従来
ワクチンを2回以上接種した人に限定されていて、一度も新型コロナワクチンを接種した
ことのない人や、1回のみ接種した人が新ワクチンを接種するには、まず従来ワクチンを
接種しないといけません。 政府が本気でコロナウイルスをワクチンで収束させようと
考えているのなら、なぜ、今、あえて“型落ち”のワクチンを輸入し、対象者もこのように
限定するのか、疑問が残ります。 

ワクチンの重症化防止効果に関しては、海外での研究によって“一定程度の有効性がある”
という評価がされていて、今回、日本小児科学会が小児にコロナワクチンを勧める根拠と
もなっています。 その評価そのものを否定するつもりはありませんし、実際に日本でも
死亡例、重症例は報告されているので、ワクチンの重症化防止効果に期待される方が
お子様へのワクチン接種を選択されることは理解できます。 ただ、それは、ある程度
ワクチンの安全性が担保されていて初めて成立する選択ではないかと思います。 
更に、もっと言えば、そもそも本当に必要なワクチンと考えているのであれば、5歳未満の
小児へのワクチン接種を早急に開始するべきではないかと思うのですが、“5歳未満への
接種は、海外の治験が不十分なので…”という消極的な理由で承認されていないことも
疑問に感じます。


◎ まとめ
当院は新型コロナワクチン以外のワクチン接種に関しては積極的な考えです。
それは、ワクチンによって生じる可能性のあるデメリット(ワクチンによる重篤な状態)
よりも、ワクチン接種によって得られるメリット(発症予防、重症化防止)の方がはるかに
大きいと判断しているからです。
一方、新型コロナウイルスワクチンに関しては、ある程度の発症防止効果、重症防止効果は
間違いなくありますが、その効果は季節性インフルエンザワクチンと同程度ではないかと
考えられ、かつ、接種した人(特に成人)の大半に強い副反応が出現しています。 
従来の基準から言えばその様なワクチンは欠陥ワクチンであり、本来は社会的に大きな
問題となり、即、接種禁止となるレベルです。 マスコミも大きな健康被害として報道
してもおかしくないのに、なぜか、“新型コロナ”というだけで、その様なワクチンによると
思われるデメリットには目をつぶり、ほとんど報道もされません。 新型コロナワクチン
接種後の死亡や重篤な後遺症が認められた報告例も累計で数千件に及んでいますが、
不思議なことにワクチン接種後のこうした問題に関しては驚くほど報道、検証がされず、
これらの死亡例、重症例が新型コロナワクチン接種と本当に関連がないのかまったく
わかりません。 
私は、ワクチンの良い面も悪い面も隠さずに事実を公表することがワクチン接種
そのものの信頼性につながると考えます。 今のように都合の悪い(と思われる)情報を
意図的に公表しないと思われても仕方がないような対応を国が続けるのであれば、
本来は子供達にとって必要なワクチン接種(新型コロナウイルスワクチン以外)そのものに
対しても悪影響が出るのではないかと憂慮しています。

そもそも、変異しやすいRNAウイルスである新型コロナウイルスを、ワクチンで撲滅しよう、
ゼロにしようという当初の発想に無理があったわけであり、いい加減現実を直視して、
適切な対応に変えていかないと、社会は機能不全に陥り、医療も逼迫し、本当に必要な
人に医療が届かなくなる恐れがあると思います。

当院では、新型コロナウイルスワクチン接種のメリット、デメリット、新型コロナウイルス
感染症の現況(患者さんの症状等)を総合的に検討した結果、今回も小児に対しては
新型コロナウイルスワクチンの接種はお勧めしないこととしました。 
当院かかりつけのお子様で新型コロナワクチン接種を希望される方には大変ご迷惑を
お掛けすることになりますが、ご理解いただきますようお願いいたします。

尚、お子様に新型コロナワクチンを接種されるかどうかは最終的にはご両親の判断に
よりますので、その結果がどちらでも当院としてはその決定は尊重したいと考えます。 
ただ、決定に際しては、大切なお子様の健康を第一に考えて頂き、
“まわりのみんなが接種しているから…”という消極的な理由や、“ワクチン接種を
すれば色々な特典やメリット(旅行割り等)があるから…”といった、本来のワクチン接種の
意義とは関係のない事柄のみをもとに判断されないことを願います。

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