小児への新型コロナウイルスワクチン接種について
   
 3月から5歳以上の小児を対象とした新型コロナウイルスワクチンの接種が始まります。
お子様へのワクチン接種をどうするか悩まれている方も多いと思いますが、最終的には
ご両親の責任で決断しなければなりませんので、色々な情報をよく検討して接種するか
どうかを決めていただきたいと思います。
 
 小児への接種に関しては小児科医の間でも賛否両論、いろいろな考えがありますが、
どちらかというと接種を推奨される先生の方が多いのではないかと思います。
 当院では今までワクチン接種に関してはどの医療機関よりも積極的に推奨して
きました。 現在は公費負担(無料)となっている肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチン、
ロタワクチン、B型肝炎ワクチン、子宮頚癌ワクチンなども、任意接種(有料)だった頃
から、“お金はかかりますが、お子さんの命を守るために必要なので、ぜひ接種して
下さい”とお話しし、積極的にワクチン接種を進めてきました。 現在も、“本当に子供に
必要であれば積極的にワクチンを勧める”という基本的な考えはまったく変わって
いません。
 ただ、現在の新型コロナウイルスの感染状況や、ワクチンの有効性、副反応などを
天秤にかけた時、どうしても子供への接種を積極的にお勧めする事ができません。
以下に当院の考えを述べさせて頂きます。


【新型コロナウイルス感染症について】
 2019年12月に新型コロナウイルスの感染が中国武漢から始まり約2年が経過しました。
新型コロナウイルスはインフルエンザのように変異しやすいウイルスで、この2年で
アルファ株(武漢株)から、ベータ株、デルタ株と変異し、現在はオミクロン株が主流と
なっています。 初期のアルファ株、デルタ株は重症度が強く、重い肺炎を合併する
傾向があり、日本でも高齢者を中心に多くの人が亡くなりましたが、現在主流の
オミクロン株は、それまでの株より重症者、死亡者は少ないようです。


【小児の新型コロナウイルス感染症の特徴】
 日本では、デルタ株までは小児への感染はあまり報告がありませんでしたが、現在は
オミクロン株が主流となり感染力が非常に高くなったため、小児の感染例が爆発的に
増えています。 ただ、感染力が強くなり、広がりやすくなった反面、症状は短期間の
発熱,頭痛など、軽症、あるいは無症状の場合が多く、小児で死亡した、重症化したと
いった報告はほとんどありません。

 この2年間(2019年12月〜2022年3月1日)の累計で、新型コロナウイルス感染に
よると考えられる未成年者の重症者数、死亡者数は以下の通りです(厚労省データ)

  10歳 未満 : 感染者数:約55万人、重症者数:4人、:死亡:0人
  11〜20未満 : 感染者数:約62万人。重症者数:2人、:死亡:7人

 死亡例も、もともと重篤な基礎疾患があった方といわれていますし、重症者の詳細
(基礎疾患の有無、コロナ感染以外の原因による死亡の可能性)もはっきり
していません。
 新型コロナウイルスが流行するまで、日本では季節性インフルエンザによる脳炎、脳症
などで毎年20〜30人の小児が死亡し、重症者も多数いたという事実と比較して、小児に
対して新型コロナウイルスがインフルエンザ以上の危機であるとする理由はこのデータ
からは読み取ることができません。


【新型コロナウイルスワクチンについて】
 現在使用されている新型コロナウイルスワクチンは、“mRNAワクチン”という、従来の
ワクチンとはまったく違う、新しい製法で作られたワクチンです。
コロナウイルスのスパイク蛋白(表面の突起)の遺伝子情報をmRNAワクチンに組み込む
ことによって、接種された後、その遺伝子情報をもとに、自分の体内でコロナウイルスの
スパイク蛋白が作成され、それに対する免疫ができてコロナウイルスの発症を防ぐと
いう仕組みです。 新型コロナウイルスへの対抗策として急遽開発され、通常の承認期間
から考えると異常とも思える早さで特例承認、使用されるようになりました。

 新型コロナウイルスは変異しやすいウイルスですが、その変異は、主にスパイク蛋白の
変異によるもので、アルファ株とオミクロン株ではスパイク蛋白の遺伝子情報も大きく
違っています。 現在のワクチンはもともとアルファ株を対象として作られたワクチンで
あるため、現在主流となっているオミクロン株に対しては、ワクチンの効果は限定的と
なりますし、今後発生すると思われる新たな変異株に対しての有効性は未知数です。 
 ワクチン接種が開始された当初は、ワクチンによる発症防止効果は90%以上、
重症阻止効果も非常に高く、高齢者を中心に多くの命を救ってきました。 
しかし、ウイルスの変異にともない、発症防止効果、重症阻止効果は徐々に低下し、
当初は“2回接種すればコロナウイルスを防げる!”と言われていた接種回数は
3回接種が必要となり、現在は4回目接種が検討される状況となっています。 
実際、北海道の医療施設では、昨年12月にスタッフに対してワクチンの3回接種が完了
していたにもかかわらず、そのスタッフ間でのクラスターが発生した事例もあり、
ワクチンを接種したからコロナにかからない、他の人に感染させることはない…とは
言えない状況となってきました。 
 現在の共通認識としては、現在使用されているワクチンではオミクロン株に対しての
発症防止効果はそれほど高くは無い(=ワクチンを接種しても感染は防げない)、
重症阻止効果はそれなりにはあるだろう…といった状況となっています。


【新型コロナワクチンの安全性について】
 ワクチン接種が始まってから、まだ2年しか経っていないため、ワクチンの安全性
(特に長期的な安全性)に関しては、正直“わからない”としか言えません。
一般的には、“安全なワクチンです。副反応はあっても軽度ですぐ回復します…”とされて
いますが、実際にワクチン接種した人の半数以上に発熱や頭痛、全身倦怠感などの強い
症状が出現していて、頻度は少ないながら、心筋炎を起こす可能性があります。 
 5歳から11歳までは、12歳以上の3分の1の接種量となるので、12歳以上の場合よりは
接種後の症状は軽いと予想されますが、接種者がある程度の数にならないと詳細は
わからないと思います。
 また、日本での新型コロナワクチン接種後の死亡は現在までに1400例程度報告されて
います。 もちろんこれらの死亡例は、あくまでも新型コロナワクチンを接種した後の
一定期間内に、何らかの原因で死亡した症例が報告されており、その大部分はワクチン
との因果関係は不明とされています。 
 実際、厚労省のデータを見ると、その大部分は高齢者であり、ワクチンとの関連性は
なさそうです。 ただ、最近では20代〜50代の死亡例が徐々に増えていて、これら
すべてが本当にワクチンとは無関係な死亡なのかどうかはわかりません。

 通常のワクチン(コロナワクチン以外)で、このような頻度で副反応が出現すれば、
そのワクチンは“問題のあるワクチン”とされ、すぐに接種中止となるレベルです。
過去、子宮頚癌ワクチン、日本脳炎ワクチンは、ワクチンとは無関係と思われる
接種後の,非常にまれ(全体で数人程度)な症状についてマスコミが大きく取り上げ
大問題となり、長い間接種が実質的に中止となっていました。

 マスコミは連日コロナ患者の総数を報道しますが、実際にはその大部分が無症状者や
軽症者であるということは報道せず、重症者、死亡例にフォーカスを当てて恐怖心を
あおります。 その反面、新型コロナワクチンの関与が否定しきれない副反応、死亡例に
関しては、ほとんど報道していません。 ワクチン接種後の副反応、死亡例に関して、
すべてワクチンが原因であると言うつもりはありませんが、あまりにも報道に偏りがあり
違和感を感じます。
 新型コロナウイルス自体の性質が分からず、緊急性が高かった2年前であれば、
このようなワクチンを緊急使用することはやむをえなかったと思いますが、いろいろな
情報、知見が集積され、コロナウイルスの病原性も変わってきた今の状況でもこのような
信頼性に問題があるかも知れないワクチンを無条件に使用してもいいのかという疑問は
ぬぐいきれません。

 ワクチンに限らず、どんな薬、治療でも、一定の頻度で副作用は起こりうるので、
そのような医療行為はメリットがデメリットを上回る場合に限定すべきというのが
大原則です。

  ・ワクチンを接種しても新型コロナウイルスに感染しないわけではない
  ・ワクチン接種による発症防止効果、重症阻止効果は時間と共に減少していく
  ・そもそも、現在主流のオミクロン株は、仮に感染しても、大多数は無症状か
   軽症で、重い後遺症が残ったり、死亡したりすることはまれである
  ・ワクチンの安全性に関しては“まだわからない”としか言えない

 このように考えた時、今回の(現在の)コロナワクチンを小児に対して接種する
メリットがデメリットを大きく上回るとはどうしても考えられません。 
 小児への接種が始まるに当たりいろいろと考え、悩みましたが、自分自身が患者さん
に自信を持って“接種した方がいいよ!!”と勧めることができないワクチンを接種する
ことはやはりできないと思い、当院では“現時点では”小児に対する新型コロナウイルス
ワクチンの接種は行わないこととしました。
 コロナワクチン接種を希望される方がいらっしゃることも理解していますし、その方々
にご不便をお掛けすることになり、大変申し訳なく思いますが、接種をご希望の方は
他院で接種して頂くよう、ご理解のほどお願いいたします。

 尚、今後小児に対する新型コロナウイルスの重症度が上がり、死亡例、重症例が増える
ような状況となれば、当院でも現在のmRNAワクチンを接種するという選択をしますし、
将来的に別の方法(不活化ワクチン、組み替え蛋白ワクチンなど、安全性に関して実績のある従来の製法)で作られたコロナワクチンが認可された場合は、そのワクチン接種を
行うことがありますので、そのような状況となれば、改めてお知らせいたします。

     2022年3月6日
                    


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