キッズクリニックうめはら

●当院では”ワクチン同時接種は、大切な子供達を病気から守るために一番メリットが大きい接種方法である”という考えのもと、3年前(平成20年10月)よりワクチンの同時接種を積極的にお勧めしています。 当院では多くの方が同時接種を選択されていますが、3月に同時接種に対する誤った報道がされたことでなんとなく不安を感じたり、周りの人から反対されたりして、同時接種を敬遠される方もあります。 先日行われた日本小児科学会総会でも、子供達のために同時接種を積極的に勧めるべきであるという方針に変わりはありませんでした。 ここでもう一度、同時接種に関して詳しく説明し、同時接種に関する誤解を少しでも解消したいと思います。

 今年の3月、新聞等で”ワクチン接種後に死亡”、”同時接種で死亡”といった衝撃的な報道がされましたが、これは、”ワクチンによって死亡した”あるいは”同時接種をしたから死亡した”と受け止められかねない、誤解を招く報道でした。 実際は、この時点でワクチン接種と死亡例との因果関係は全くわかっておらず、その後の専門家会議の結果、これらの死亡とワクチン接種、あるいはワクチン同時接種とは関係がないという科学的な結論が出され、4月にワクチン接種は再開、同時接種も禁止となりませんでした。 
 日本では、現在、年間約2,500人の乳児(1歳未満児)が、何らかの原因(病気、突然死、事故など)で死亡しています。 これは、1日あたり約7人の乳児が死亡しているという計算になります。 2月に肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの費用助成が始まり、これらのワクチンを同時接種する人が急増しましたが、もし同時接種により死亡するのであれば、乳児死亡率は跳ねあがり、年間の乳児死亡数も多くなるはずです。 しかし、検討の結果、ワクチン接種前と後で乳児死亡率に変化はなく、これらの死亡例は、まぎれ込み例(=何らかの原因で死亡した乳児がその数日前にたまたまワクチンを接種していたが、ワクチンと死亡との因果関係はない)である可能性が高いという結論になりました。 諸外国では、ワクチン同時接種は当たり前で、それによって死亡率は上がらないというデータがありますが、今回の検討会議でも海外と全く同じ結果でした。 しかし、その科学的な結論に関してはその後ほとんど報道されず、現在でも同時接種が非常に危険だと誤解している方が大勢います。
 肺炎球菌、ヒブによる感染症、百日咳などは乳児が発症した場合、非常に重症化しやすく命に関わります。 個別接種の場合、ワクチンとワクチンの間は最低でも7日間はあけないといけないため、次のワクチン接種までの間にこれらの感染症にかかる可能性があります。 途中で風邪をひいたり、病院のワクチン予約枠がいっぱいでワクチン接種間隔が延びた場合は、その危険性はさらに高くなりますが、同時接種の場合はその危険性を減らせます。 また、病院に行く回数が減るため、他の病気をもらう危険性が減ります。 一方、デメリットとしては、万が一、ワクチン有害事象がおきた場合、どのワクチンが関係していたのかわかりにくくなる可能性があります。 しかし、実際はワクチンによる有害事象の大部分は、接種部位の腫れや一時的な発熱がほとんどであり、そのことでワクチン接種を中止するほどのものではないため、あまり大きな問題ではありません。 同時接種は、最短期間で効率よく必要なワクチンを接種できる最良の接種方法です。
 ヒブワクチンは20年前から全世界で2億人以上、小児肺炎球菌ワクチンは10年前から全世界で3億人以上の乳幼児に接種が行われ安全性が認められているワクチンですが、日本では2〜3年前にようやく導入されました。 それまでは毎年約1,000人の乳幼児に細菌性髄膜炎が発症し、そのうち数10人〜100人が死亡、かろうじて命が助かった子供達の100人以上に重い障害が残っていますが、その事実は今までほとんど報道されていないので皆さんはご存じないと思います。
 私は小児科医となって今年で21年目になります。 開業後は同時接種も数多く行い、肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンに関しては山陰の医療機関の中では一番多く接種してきましたが、大学病院などでの勤務医時代も含めて、今までワクチン接種やワクチン同時接種によって死亡、あるいは障害が残った患者さんを経験したことは幸いなことに1例もありません。 でも、髄膜炎によって死亡したり障害が残った患者さんは何人も経験してきました。 これらの方が、もし諸外国と同じようにヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンを接種していたら命が助かっていたであろうと考えると、とても残念に思います。 ワクチンは体にとって異物である以上、全く副作用がないとは言えません。しかし、それは本当にまれな例であり、それ以外の多くの人たちはワクチン接種によって、気づかないうちに生命の危険から守られているのです。 ワクチン接種、あるいは同時接種により重大なことが起こる可能性より、ワクチンを接種しない、あるいは接種が遅れることで十分な免疫の獲得できず重大なことになる危険性の方が何百倍も高いのです。 大切な子供を守るにはどちらの方がリスクが少ないのか・・・ 誤った情報や科学的に根拠のないうわさ話に惑わされて、本当に大切なことを見失わないように冷静に判断し、対応されることを望みます。

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