今回は“風邪”と抗生物質の関係についてお話しします。 小児の風邪(気管支炎、鼻炎、咽頭炎、胃腸炎など)の原因となる病原体には大きく分類すると、@  ウイルス、A細菌、B非定型病原体(マイコプラズマなど)の3種類があります。この中で感染頻度の最も高いものはウイルスで、“小児期の風邪の90%以上はウイルス感染”と いう報告もあるくらいです。 これらの病原体によって起こる病気には次のようなものがあります。この中で、抗生物質が有効なのは細菌と非定型病原体だけです。 抗生物質はウイルスには全く効果がありません。 インフルエンザ、みずぼうそうの時に使用する抗ウイルス薬も、ウイルスの増殖を一時的に抑えるだけで、ウイルスそのものをやっつけるわけではありません。では、これらのウイルス感染症は一体どのようにして治るのでしょうか?人間の体内には、ウイルスなどの病原体に対抗し、排除するため様々な免疫機能が備わっています。 ウイルスに感染した時には熱が出ることが多いのですが、これは体に侵入したウイルスを排除しようと免疫反応が起こることによります。 数日後、体の免疫反応によってウイルスが減少、駆逐されると徐々に熱は下がり、元気になり、病気は治っていくのです。 ウイルスの種類によっても違いますが、その期間はだいたい23日から1週間程度です。この様にウイルス感染症の場合は何もしなくても(抗生物質を使用しなくても)数日で状態は  改善します。 小児期の風邪の90%以上がウイルス感染であることを考えると、熱が出たからといって必ずしも抗生物質が必要なわけではない、むしろ必要ない場合の方が圧倒的に多いということがおわかりになると思います。 ましてや、高熱の出ない、朝と夜だけの咳、鼻水などには抗生物質が不要であることがほとんどです。 海外では小児の風邪に抗生物質を投与することはほとんどありません。 日本だけが、抗生物質神話に踊らされ、子供達に本来は必要のない薬を投与し続けているのです。 その結果、薬剤に耐性を持った(薬の効きにくい)細菌が日本は世界のどの国よりも多く出現し、さらに新しい抗生剤が必要になるという悪循環に陥っています。 最近では、日本の小児科医の中でも、抗生物質の投与を 極力なくそうとする動きが広まりつつありますが、まだ十分ではありません。 将来ある子供達に 不要な薬を投与しないために、私たち小児科医には、抗生物質が必要な“風邪”とそうでない“風邪”を的確に判別するための高い診断能力を維持する努力が必要となりますが、ご家族の皆様にも、 一日も早く誤った“抗生物質神話”から抜け出していただく必要があるのではないかと考えます。

風邪とお薬B